本年度に実施した研究の概要は、以下の通りである。 (1)京都市中心部(上京区、中京区、下京区)における自営業の現状と、近年の生活の実態について、各商店振興会等でヒアリングを行った結果、近年の生活変容が顕著に見られ、これらが地域の変容に多大な影響を及ぼしている実態が認められた。代表的な商店街の一つである寺町京極商店街では、(1)小規模ながら株式・有限会社が多いが、実態は零細生業型の家族経営がほとんどであり、(2)借家率が高く、(3)職住共存地区であるが、近年は流出傾向が特に顕著になっていることが明らかにされた。 (2)京都市都心部において100年以上営業を継続している老舗として「京の老舗表彰」を受けた自営業者の民住・営業の継続状況について実態調査を実施し、平成4年に筆者が実施した「京老舗経営者とその家族の生活実態調査」の結果との比較分析を行った。その結果、(1)老舗の営業状況の変容には三タイプが認められるものの、(2)多くが株式・有限会社であるが、その実態は依然として小規模で零細な家族経営であり、(3)後継者問題がさらに深刻化しているという実態が明らかにされた。特に、後継者問題では、現経営者が希望する「家族による老舗の継承」が、必ずしも家族全員の合意にはなっていないケースもかなり見られた。これについては、今後、地域の変容に直結していくと考えられる。 今後は、京老舗経営者世帯の生活変容について更に実態分析を深め、地域の生活変容に及ぼす影響を検討すること、ミラノ市の歴史的都心地域の生活実態と変容状況を明らかにすることが当面の課題である。
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