家族経営の零細自営業が集積するミラノ市は、イタリアが1968年に「橋渡し法施行令」によって定めた「Centro Storico(歴史的・芸術的価値ある都心地区)」に該当し、都市計画上の保存地域とされている。その変容過程に着目して、ライフスタイルの変化について検討した。概要は以下の通りである。 イタリアは、中世の生産者優先の商業制度を、戦前には消費者利益にかなう統一的な小売商業制度に変え、第II次世界大戦後には、中心市街地の空洞化・業務地化による小売商業の劇的な衰退への対応策として、自治体が策定する地域商業計画に基づく登録許可制度により長年月をかけて計画どおりの地域に誘導した結果、歴史的地域が観光客の拠点として活性化した。その背景を見ると、ミラノ市では、(1)小売店舗はテナントが多い、(2)テナントの多くは世代継承しない、(3)建物自体がヨーロッパの伝統的な構造で(1階に店舗、2階以上にアパートメント)これに適したライフスタイルが普遍的、(4)都心の路上仮設店舗で生鮮食料品を営業する施策がとられ、これが都心生活者の不便を補っている、(5)個人や世帯のライフスタイルが変容しても前述の要件は不変であった、という5点が指摘できる。 一方、わが国の歴史的都心地区である京都市中心部では、商店街の衰退、老舗の廃業が近年とくに顕著であり、京町家が現代建築に建て替わるケースも急増している。そこで、今後は、社会・文化的な違いをふまえてミラノ市と京都市都心部との比較分析をさらに進め、家族のライフスタイルの個別化が世帯の生活変容に及ぼす影響、さらに地域変容に及ぼす影響を検討することが課題である。
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