近年わが国においては、家族のライフスタイルの個別化が急速に進行しており、従来「家族」が継承してきた伝統的な生活は変容し、家族のライフスタイルにも世代差が生じているとみられ、しかもこの傾向は、自営業経営者とその家族の生活においても同様である。自営業経営者の生活は、従来、家族の生活の中に労働や企業経営といった生産の部分と消費生活あるいは家族の生活という双方を内包してきたが、生活の個別化の進展により、ライフスタイルの全容にわたって変容を来している。本研究で実施した京老舗を対象とする生活実態調査およびケース研究の結果ならびに10年前に実施した同様の調査結果との比較分析から、生活時間、生活空間の面や、老舗経営への関わり方などにおいて、特に個別化の進展が顕著であることが明らかにされた。加えて、老舗経営に対する考え方や姿勢、老舗経営のノウハウなどにおいても家族員個々人の方針でそれぞれが取り組んでいくというような、個別化現象とも見られる動向が認められた。また、特に先代から継承直後あるいは継承途中にある若い世代(30代後半から40代前半)の経営者の中に、従来には見られなかった継承パターンや経営タイプ、あるいは家族の生活や居住の新しいパターンなどが認められた。これらのケースは、家族のライフスタイルの個別化が進展し、それを尊重しつつ老舗経営を維持する結果として出現したものと考えられた。また、近年の京都市歴史的都心地区においては、マンション建設などが隆盛を極めており町並み変容が著しいことから、居住や営業の地域や街区の変容が影響を及ぼしている部分があることも指摘されたので、今後の課題としたい。
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