近年わが国においては、家族のライフスタイルの個別化が急速に進行しており、従来「家族」が継承してきた伝統的な生活は変容し、家族のライフスタイルにも世代差が生じているとみられるが、自営業経営者とその家族の生活においても同様である。自営業経営者の生活は、従来、家族の生活の中に労働や企業経営といった生産の部分と消費生活あるいは家族の生活という双方を内包してきたが、生活の個別化の進展により、ライフスタイルの全容にわたって変容を来している。本研究で実施した京老舗を対象とする生活実態調査およびケース研究の結果ならびに1991年調査との比較分析によれば、廃業・移転もかなり認められたが、小規模で零細な家族経営が中心であることには変わりなかった。 その生活実態をみると、生活時間・生活空間の使い方など家族の日常生活、営業状況や経営方針などの老舗経営という双方の面で個別化の進展が顕著に認められた。今後の老舗経営方針でも家族員個々人の方針でそれぞれが取り組んでいくという個別化現象的な動向や、若い経営者世代に新しい経営・継承パターンや家族の生活・居住パターンなどが発現していた。これらは家族のライフスタイルの個別化が進展した結果、それを尊重しつつ老舗経営を維持するための結果として出現したものと考えられた。また、ミラノ市における検討結果との比較から、居住・営業している地域や街区の変容が多大な影響を及ぼすことが示唆された。歴史的地区における営業・出店過程や、伝統的な家族構成・居住スタイルが異なるため明言は困難であったが、これらをふまえ、具体的な地域社会への影響については今後のさらなる課題としたい。
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