研究概要 |
まず縫目部分の防水性に影響する因子を調べるために、塩化ビニル板を用いたモデル実験を行った。撥水加工をした塩化ビニル板に0.4mm〜0.7mm直径の穴を段階的にあけ、それをアクリル製の円筒容器の底面に取りつけ、その円筒内に水を注入していき漏水が起こる水量を測定した。糸がない場合については、穴が大きくなるに従って防水性が低下した。穴に撥水処理されていない糸を通すと、糸のない場合と比較して防水性は著しく低下した。一方、撥水加工糸を穴に通した場合は未加工糸と比較して防水性は向上し、糸が太い方がその効果は大きいが、やはり糸のない場合よりも防水性は低下する傾向が見られた。またフィラメント糸に比べ、スパン糸は防水の効果が大きい。さらに実際に縫糸を通した超撥水織物の耐水性についても検討したが、同様の傾向を示した。 モデル実験の結果を踏まえ、次に消費過程における縫目への影響を検討するために縫目疲労試験機を導入し、多数回(2,500〜10,000回)の加重・除重作用を与え、この前後の縫目部の耐水度試験を行った。その結果、縫目の荷重・除重回数とともに縫目部の耐水度は明瞭に低下した。縫目の針穴部を観察すると、疲労試験後には布地の針穴部が損傷を受けており、このような変化が耐水度の低下と結びついていると考えられる。 以上の結果を踏まえ、縫目部を共布でくるむ(ラップドシームとする)、コア糸にナイロン撥水加工糸を複合して縫製する、針穴部および縫代部をポリウレタン樹脂で処理する、などの方法を考案した。このうち比較的大きな効果が得られたのは、後者の二つの方法であった。ナイロン加工糸の複合縫目においては、加工糸の複合本数には適正な数が存在し、疲労試験によって耐水度の低下傾向は現れるものの、複合しない場合より大きく改善された、ポリウレタン樹脂によって処理したものは、間隙を充填してしまうため効果は極めて大きかったが、衣服に適用した場合の問題点をさらに検討する必要がある。
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