研究概要 |
本年度は,国産のアクキガイ科の種々の貝類について,その鰓下腺に含まれる色素を用いて直接染色と還元染色を行い,発色性の違いを検討した。その結果,新たに以下の知見を得ることができた。 1.直接染色による貝紫の発色性 (1)アクキガイ科の種々の貝の生貝色素捺染(摺染)において,貝の種類の違いが発色性に及ぼす顕著な影響が認められたが,産地(生息地)や雌雄および季節の違いが発色性に及ぼす明瞭な影響は認められなかった。 (2)アカニシを用いた生貝色素浸染において,特に,雌雄の違いが発色性に及ぼす明瞭な影響が認められた。すなわち,発色性は雌雄混合浴>雄浴>雌浴の順に強く現れ,これは絹と毛及びナイロンに顕著に観察された。また,本染色方法では貝の産地(生息地)の違いが発色性に及ぼ天明瞭な影響は認められなかった。 2.還元染色による貝紫の発色性 (1)アカニシを用いた化学建てにおいて,雌雄の違いが発色性に及ぼす明瞭な影響が認められたが,上記の生貝色素浸染法とは異なり,雌雄の違いが発色性に及ぼす影響が逆転していた。すなわち,発色性の強さは雌雄混合浴>雌浴>雄浴の順に観察された。また,本方法においても,産地(生息地)の違いが発色性に及ぼす明瞭な影響は認められなかった。 3.今後の研究計画 貝紫は古代より各地で染色に利用されてきたが,科学的な研究報告は西洋の限られた数種の貝類について行われており,また,我が国の貝紫に関する研究報告は極めて少ない。今後も,種々の貝類に含有される色素の発色性を中心に検討し,貝紫染めに関する基礎的な研究を進めていく。
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