研究概要 |
本研究ではフライ時に経験する油酔に関与する油の分解成分を反応性の高い低分子不飽和アルデヒド類と仮定し、その中でも環境汚染の有害物質であるアクロレイン,CH_2=CHCHO)に焦点を当てた.油酔いは気化したアクロレインを吸入することにより生じると考えられることから,油から気化したアクロレイン等の捕集法と高感度定量法一特異性の高い免疫化学的(ELISA法)一を検討した.捕集法では内径2.5cmの共栓試験管に油を入れブロックバスでフライ温度に加熱し,ガラス管により気化成分を水中に溶解させた.このアクロレインの溶解した水溶液に一定濃度のBSAを添加し,BSAのアクロレイン付加体とし,競合ELISA法のキットを用いて,アクロレイン量の定量を試みた.油〈高リノール酸サフラワー,市販サラダ,焙煎ゴマ油)をブロックバスで,180℃,30min(air flow,220ml/min)加熟後,気相と油層のアクロレイン集(ACR)生成量を上記の方法で調べた.また,比較のために,油の熱酸化度をAn.Vで測定した.ACR生成量(nmol/ml)サフラワー油で気相433.69に対し,油層は約1/100であった.焙煎ゴマ油は気相25.41とACR生成量が他の油に比べて著しく抑制され,この結果はこれまでの低分子不飽和アルデヒドである4HNEの結果と同様であった.どの油も油層に比べて,気相にACRが多く生成しており,油酔いの要因ではないかと考えられた.これまで,アクロレインはトリグリセリドのグリセロール側から生成すると考えられていたが,リノール酸,トリリノレイン,グリセロール,トリカプリリンを用いて同様の実験を行った結果,気相にはリノール酸から最も多く生じ,グリセロール,トリカプリリンからは生じていなかったことから,アクロレインはグリセロール側ではなく,脂肪酸,特に,不飽和脂肪酸から多く生じることが明らかとなった.今後このアクロレインが生体内のタンパク質とどのような部位で結合し,油酔いとして認識されるかをモデル的に明らかにするとともに,どのような油がアクロレインなど有害な低分子アルデヒドの生成を抑制するか,また,どのような抗酸化成分をもちいてれば良いかなどについて研究を行う予定である.
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