我々の生活環境中にはダイオキシン、DDT、PCB、ベンズ(a)ピレンを含む多種多様の化学物質が存在している。それらは農作物や魚介類を通して生体に取り込まれ、脂肪組織等に蓄積、濃縮され、直接、間接的に疾病や老化などの発生に関与しているものと考えられている。さらに、水道原水の塩素処理時に生成する3-chloro-4-dichloromethyl-5-hydroxy-2(5H)-furanone[MX]は強い変胃がん原性を有し、水道水やプール水、河川水に存在することからその生体内運命の解明も興味が持たれている。本研究では、日常的に摂取されるこれら変異・がん原物質の生体内での吸収・代謝・排泄が食事成分でいかに変動するか、また、体外への排出速度を促進させる新しい手段を検討する目的で先ずin vitroでの実験を試みた。 MXとベンズ(a)ピレンを水または水-エタノール混液に溶解し、食物繊維のセルロース、リグニン、キチン等を添加し、一定時間保湿したのち吸光度の変化から吸着能を検定した。その結果、特にキチンが両化学成分を効率的に吸着した。茶葉粗出物を用いた場合MXは緑茶が最も高い吸着能を示し、ルイボス茶、ウーロン茶、紅茶、プアール茶の順となった。また、加熱食品由来のヘテロサイクリックアミンであるTrp-P-1やGlu-P-1、MeIQx等の変異・発がん物質についても同様に吸着能を測定したところ、キチン、キトサンでの吸着能がより高いことが明らかになった。食物繊維が吸着能のみならず、腸内細菌叢に対する改善効果を発現することを考え合わせてin vivoでの実験に移行することにした。現在、DDT、PCBを含む化学成分を動物に投与したのち一定組成の植物成分あるいは有効成分を摂取させ、無投与の場合と吸収率、代謝率、排泄率の比較を行っている。
|