研究概要 |
食材加熱の際に生じる成分の多様な相変化が系全体の非定常熱移動に及ぼす影響を調べるため,脂質成分の融解,寒天水溶液ゲルの転移,鶏卵タンパク質の加熱凝固,および小麦粉ドウの膨化を取り上げ,これらに起因した食材系の状態変化が系内の温度上昇曲線に影響する状況を観察した. 1)脂質成分の融解が試料の可塑性を消滅させ,昇温機構が伝導伝熱から対流伝熱に移行する際に系全体の一時的な温度下降を誘発し,その温度は加熱面の近傍で40℃に達する場合があるが,O/W型乳化系では分散油相間の高次構造のため,高温域でも伝導伝熱による昇温機構が持続する. 2)本研究に用いた調理用粉寒天の場合,その水溶液ゲルは50〜60℃の低温部と90℃付近の高温部に転移現象が観測され,各転移に際し試料加熱面近傍で10℃未満の温度下降が見られるが,高温部転移が終了するまでの昇温機構は,残存するゲル構造のため実測の範囲で伝導伝熱に依る. 3)鶏卵タンパク質の加熱凝固は「茶碗蒸し」の例に見られるように系全体の非可逆的なゲル化に寄与し,昇温機構を伝導伝熱に変化させるが,その際の吸熱や発熱による温度変化は見られず,凝固温度も「オムレツ」から「卵豆腐」にいたる調理事例の範囲で鶏卵成分の濃度に依らない. 4)ベーキングパウダー(BP)を添加した小麦粉ドウに見られる加熱膨張は,無添加系と比較して試料内部の昇温速度を著しく加速するが,BP添加の有無とは無関係に温度上昇曲線は既報の指数式に適合するので,小麦粉ドウの熱膨張は指数式の時定数(遅延時間)で評価し得る可能性がある. 5)室温で計測された脂質系や鶏卵タンパク質系の一部試料の粘弾性パラメーターと,これらの加熱による転移現象との間に有意な関係は見られない.今後,新規に設営されたクリープメーターに試料温度を制御する装置を付設し,転移温度付近でのレオロジー測定を実施する必要がある.
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