本研究の目的は二点あり、第一は、縄文時代における集落遺跡の存続期間を放射性炭素年代測定法で実証的にあきらかにすることである。第二は、集落遺跡の存続期間と土器型式の関係をあきらかにすることである。研究の対象として、縄文時代後期中葉〜晩期の集落遺跡である石川県石川郡野々市町御経塚遺跡を具体的にとりあげ、検討をこころみた。目的を達成するためにとる方法は、深鉢形の縄文土器に付着した炭化物を試料に、名古屋大学年代測定総合研究センターに配置されているタンデトロン加速器質量分析計で放射性炭素年代測定をおこなうというものである。 実際に作業をすすめていくうちに、あらたな問題がうかびあがってきて、それを解明するための試料採取や測定をおこなった。第一に、御経塚遺跡の測定値の妥当性を検討するためには、それと同時期の遺跡から出土した試料を測定する必要性がでてきたため、石川県金沢市藤江C遺跡・長野県小諸市氷遺跡・愛知県安城市堀内貝塚の3遺跡についても測定をおこなった。第二に、ひとつの土器型式でもいくつかの段階に細分されている型式もあり、型式レベルの存続期間ばかりでなく、段階レベルでの存続期間を究明する必要性も生じてきた。そこで、この点を検討するために、群馬県安中市中野谷松原遺跡の縄文前期有尾式を対象とし、試料の採取をおこなった。第三には、土器付着炭化物試料のold wood effectやリザーバー効果の問題である。この点を検討するために、コメの煮炊き具で、それらの影響が少ないと考えられる弥生土器や古式土師器に付着した炭化物を試料に測定した。 当初は研究期間の3年間で45点の測定をおこなう計画をたてていたが、測定が順調に進み、結果的には56点実施した。
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