土器モデルに吸着した脂質構成成分の組成成分変化に関する基礎研究の一環として、すでに行われているトリグリセリド・脂肪酸に続き、今年度はステロール類の回収率変化に関するデータを収集・分析・考察する事を目的とした。着目したのは、動物性ステロールとしてコレステロール、植物性ステロールとしてスチグマステロール、カンペステロール、β-シトステロール、そして細菌性ステロールとしてエルゴステロールの5種類である。 分析方法は、既知のステロールをICUキャンパス内に出土した粘土で焼いた土器モデルに吸着させ、異なった条件下(空気中、土壌中、空気を遮断した封管中)に最高70日間放置後、土器表面近くに残留しているステロールをソニケーションにより抽出回収し、経時変化に伴う回収率の変化をガスクロマトフラフィーを用いて測定、解析した。さらに土器深部に残留しているステロールを調べる為、一度表面近くの脂質を抽出し終わった土器モデルをさらに粉砕したのち、同様に回収し分析した。その結果、エルゴステロールは速やかに分解したため、分析対象から除外した。残りの4種類のステロールは、どの環境でも時間と共に土器表面近くの残留量が減少し、封管中>空気中>土壌中の順に回収率が低下する事が分かった。いずれの場合も、深部にステロールが残留する事が確認され、深部にまでステロールが浸透し保持される事が分かった。特に土壌中に放置した場合、表面近くではいずれのステロールも約30日で回収率が約10%にまで低下するが、逆に深部には吸着させた約30〜40%が保持されていることが明らかになった。残りの50〜60%は流出・分解、あるいは未回収と考えられる。特にコレステロールは残留性が高い。
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