土器に吸着された脂質を分析し、古代の生活・環境を考察するためにはまずデータの信頼性が重要になる。そこで我々はモデル土器に吸着させた脂質構成成分が環境や時間と共にどのように変化するのかの基礎データを収集・分析・考察した。平成11、12年は脂肪酸(FA)と脂肪酸エステルであるグリセリド、平成13年はステロールを対象に、空気中、土壌中、空気を遮断した封管中、水中(H12)の条件における経時変化(最長855日)を分析した。土器に吸着された脂質はどの環境下でも時間と共に土器深部に浸透し残存する事が明らかになり、H12年以降は土器表面と土器深部とに分けて分析する事とした。最終年度である平成14年は、縄文土器(賀曽利E式)から脂質を抽出し、特にステロールの残存を調べた。 結果:1)トリグリセリド(TG)は土器マトリックス内に保護されていても時間と共に徐々にFAに加水分解された。2)FAの組成はいずれの環境においても時間と共に変化した。3)土器深部に残存するTGは、特に空気を遮断した封管中や水中に保存された場合に良く組成が保たれていた(155日)。4)植物性ステロール(カンペステロール、スチグマステロール、β-シトステロール)とコレステロール(動物性)の比は土器表面でも深部でも、またどの環境下でも誤差範囲内でほほ一定であった(49日)。5)縄文土器からはステロールが微量しか検出できなかった為、共存するステロールエステルを効率よく加水分解する条件を確立し、検出濃度を大幅に増加した。6)縄文土器からコレステロール、カンペステロール、スチグマステロール、βーシトステロールが検出された。深鉢(煮炊き用)は土器表面と深部で植物性/動物性ステロール比に差があったが、浅鉢(盛り付け用)は差が無く、考古学的見知が裏付けられた。
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