研究概要 |
天然高分子材料のひとつである漆は9000年に以上も前から使用されてきた塗料であり,接着剤である.そして,明日香時代以来多くの家具,食器,文化財建築物に漆を使って製作されてきた.これらは,貴重な文化財である.また漆は,現代においても美術工芸品という立場の他に実用品としての立場もあり,漆器や家具にも使われることが多い.しかし,漆器は優美な艶や色彩を持つなど日本が誇る伝統工芸品ではあるが,漆は有機物であり,有機物は無機物よりも本質的には弱く,また漆の短所として耐光性が良くない点を多くの研究者が指摘している.そこで,本研究では,漆器を美術品としての立場から美術館や博物館などにおける展示保存の検討,実用品の立場から耐光性向上の2つの観点から研究を進めてきた. 具体的には,美術品の立場から,美術館や博物館などにおいて漆塗装物に対して用いられる光について検討した.これらのことから,漆塗装物を保存するのであれば,暗所保存が最も変化が少ない環境であった.しかし,光が照射されるような展示環境では,光源に紫外放射が少なく,また光源自体の放射照度が少ない光源が最も適していた.これらの条件に適した光源は,現在市販中のものでは,美術・博物館用蛍光ランプ(電球色)であった.また光源を美術・博物館用蛍光ランプ(電球色)を用いた場合、照度もJIS Z9110(照度基準)の150〜300lx以下であれば光劣化はほとんど抑制されることが明らかとなった. また実用品の立場から,漆塗装物の耐光性改善について検討した.具体的には,漆塗装物に短時間の臭素付加を行い,紫外線暴露試験を行ったところ,臭素付加を行うことにより耐光性が改善されることを見出した.また最適臭素付加時間は10分〜20分間行うことより漆が持つ特長を損なわないことが明らかとなった.
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