研究課題/領域番号 |
11680170
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研究機関 | くらしき作陽大学 |
研究代表者 |
北野 信彦 くらしき作陽大学, 食文化学部, 助教授 (90167370)
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研究分担者 |
肥塚 隆保 独立行政法人文化財研究所, 奈良文化財研究所・埋蔵文化財センター, 室長 (10099955)
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キーワード | 出土蒔絵漆器 / 金蒔絵〓 / 銀蒔絵粉 / スズ蒔絵粉 / 人造石黄(As_2S_3) / 手板試料(標準サンプル) / 劣化実験 / 紫外線劣化 |
研究概要 |
本年度は、調査する機会に恵まれた近世出土蒔絵漆器の材質・技法および劣化状態の基礎調査と、近世漆器の使用される確率の高い各種蒔絵粉・箔材料および下絵漆や地塗り漆の使用顔料である水銀朱・ローハベンガラ・鉄丹ベンガラを用いて作成した蒔絵塗膜面の手板試料(標準サンプル)の紫外線照射および高湿・酸性雰囲気による劣化実験を行った。その結果、近世蒔絵漆器で多用される蒔絵粉・箔材料は、金(Au)の他、銀(Ag)・スズ(Sn)・石黄(A_<s_2>S_3)さらにはこれらの混合材料の多種多様であり、とりわけ劣化の著しい出土蒔絵漆器の場合、金自体を使用した例は数%程度で極端に少なく、金でも銀の含有量が高かった。実際の出土資料の大半は漆のニス効果を生かした銀粉・スズ粉、もしくは石黄粉であった。これらは、本来劣化や変・退色が発生しやすい材質である。この内、これまで研究例がほとんどない石黄粉について江戸時代前期頃の資料および、幕末〜明治初期頃の資料をそれぞれ分析した結果、江戸時代前期頃の石黄は天然鉱物を、江戸時代後期以降は、亜砒酸と硫黄を合成して製造する人造石黄である可能性が高いことが確認された。出土蒔絵漆器の内、占有率が高い銀蒔絵粉およびスズ蒔絵粉資料の劣化状態を、顕微鏡観察およびX線回折分析・蛍光X線分析した結果、銀蒔絵粉の多くから塩化銀(AgCl)もしくは硫化銀(AgS)が検出された。このどちらが優勢であるかは、個々の資料が包含されていた土壌成分および地下水の化学組成の状況による。そして紫外線劣化などで銀蒔絵加飾部分をコーティングしてある漆面がまず破壊され、そのためにむき出しになった銀金属が腐食されてイオン流出する、またこれと接触する包含土壌の鉄イオン等が固結して表面固化殻を形成する劣化現象が見られた。また、スズ蒔絵粉もしくは梨子地の場合、まず腐食によりスズ粉もしくは箔の体積比率が変化してコーティングしてある漆面を物理破壊させる劣化現象が確認された。
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