研究概要 |
本年度に得られた研究の主たる成果は次の通りである. [I]誰にもわかるような形で思考の流れを構成・表現する「道具」としての"表現フレーム"を使って,伝統的な授業と"つくり上げていく算数・数学"の授業の本質的な違いをより明確に出来たこと.具体的には,永平寺中学校,大野市有終東小学校における現場との共同による授業研究を通して次のようなことが明らかになった. (*)伝統的な算数・数学の授業は,「外言」-他者とのコミュニケーションで使われる言葉-で表現される「思考の流れ」の基になる"言語に依存にしない思考"に注目すると,従来の「出来上がった数学」を"教える"授業というのは,実は,ギリシャのソフィストから伝統的に受け継がれて来た相手に反論の余地を全く与えない"説得術"に支えられているということがわかった. 学習指導の詳しいプロセスを"表現フレーム"を使って表現しなおすことによって,従来より優れた"指導技術"と思われていたものの多くが,-子ども達を何もいえない状態に追い込む術-であることがわかってきたのである.学年進行と共に増加する"数学嫌い"との関わりを明らかにすることは今後の課題である. (*)上記の"言語に依存にしない思考"をベースにした授業により,子ども達の学習態度・意欲が目に見えて向上すること.また,そのような授業では,従来の授業に全く参加できなかった子ども達が授業に参加できるようになることも明らかになった. [II]知的機能の発達が「思考」のスピードを上げること (*)[I]における"表現フレーム"を使った授業や,「触覚情報」に基づいて考える授業は従来の授業より,単元のはじめの部分でかなり時間がかかった.ところが,十数時間の授業を終えて見ると結果的に,従来の授業でやってきたことはすべて学習してしまっているのである.これは,"つくり上げていく算数・数学"の授業における知的機能の発達の影響によるものと思われるが,詳しい考察は今後の課題である.
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