研究概要 |
教師が教えようとする知識を既に知っている"進んでいる子"と「予備知識」とその運用能力が足りないために教師の説明を理解することが出来ない"遅れがちな子"とがいる. "遅れがちな子"がわかるように説明していると授業が進まず"進んでいる子"が退屈する.逆に,"進んでいる子"に照準を合わせて授業を進めていくと"遅れがちな子"がわからない."遅れがちな子"と"進んでいる子"の一方が他方の学習の妨げになるのである.その結果,"遅れがちな子"も"進んでいる子"も授業中,新たな「知識」を構成or獲得出来ない状態に置かれている.これは,教科書の学習内容を教師が解説していく形で展開していく伝統的な算数・数学の授業の抱える最も深刻で解決困難な問題の1つである.この問題の根本的な解決には,次の(1)(2)を満たす-それは学校教育の趣旨に叶っている-授業の展開原理を確立することが必要不可欠である. (1)各人が既有の知識を基にして,新たな知識を構成・表現できる. (2)共同で考えることによって,個人では考えられなかったことを考え出すことが出来る. 本研究は上記の問題に真正面から取り組み,下記の(1)(2)(3)のような成果を得ることが出来た. (1)(2)における思考水準を高めていく「共同思考」はVigotskyの発達の最近接領域などによって,以前よりその重要性が指摘されて来た.本研究はある条件下にある"3人の共同思考"と同じ形式の思考が子ども達が個人でも実行可能である-「3人の自分」による"内なる"共同思考と呼ぶ-ことに着目し,子ども達が自力でも思考の水準を高めていくことが出来る学習活動の原理を開発し,(1)を満たす算数・数学の授業の具体的な展開原理を提示することが出来た. (2)(1)の成果を踏まえ,「3人の自分」による"内なる"共同思考によって得られた思考の流れを,誰にでもわかるような形で表現するための"表現フレーム"を考案し,それを使って「個人思考」と「共同思考」が互いに他を促進する形で展開することが出来る学習活動の原理を開発し,(1)(2)の両方を満たす算数・数学の授業の具体的な展開原理を提示することが出来た. (3)また,(1)(2)を満たす授業が,従来の授業では対応が極めて難しかった-習熟度別クラス編成の最下位のクラスの-子ども達の思考レベルを確実に高めていくことが出来ることもわかって来た.
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