研究課題は、工学系学習者に幅広い知的財産権の知識と実践力を修得する教育システム確立であり、昨年に引き続き「1.教科概念確定と単元別指導手法。」「2.指導学習用資料教材の制作。」「3.これらを総括する授業効果検証。」の三分野を包含している。本年度研究発表の雑誌論文2件は1.の教科概念確定分野に関するものである。特許電子図書館を応用したIT対応複合型授業手法の最終確認と初等中等教育の情報科目に応用するサブセット版の提案を行っている。2.は、知的財産権判例と関連メディア教材を250件分(計1千頁)を木村研究室ホームページで提供できるように調整済みである。また、ビジネスモデル特許事件のメディア教材5百頁を制作し、既に研究室ホームページで一般に提供している(http://pc-kimura005.cc.miyakonojo-nct.ac.jp/lectcont/pat0000.pdf)。更に、本年度研究発表の図書2冊も当該分野の教材として利用できる教科書を想定して分担執筆や策定委員として制作に携わった。次に、3.の効果検証分野が本年度最も研究が進展した分野である。雑誌論文「ITを利用した知的財産対応能力開発の学習認知構造」に75頁にわたり述べている。数年間の学生アンケート等に回帰・重回帰・相関・重相関分析を行ったところ、知的財産権学習における学習過程には一定の法則に基づいて「浅い認知行動」と「深い認知行動」が複合して作用し、理論の本質に向かって学習段階を進めるに従い、当該二種類の認知学習過程が異なる逆方向の効果を示すことがわかった。即ち、高等教育段階の知的財産権学習において、難易度に沿った従来型学習方法の単純な延長方式等では効果的な学習は期待できないということが判明した。異なる認知行動がクロスする限界点の前後で、異なる教育方法や教材を用意する必要性をデータにより証明したものである。
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