本稿では青少年の創作体験を主な研究対象として、次のような問いかけを行った。それは、絵を描くことによって自己を新たに発見し、自分が一回り大きな存在に成長する充実感を味わうためにはどうすればよいのかという、いわば不確かな自我を明確にし、さらには拡張するための方法的な問いかけである。ここで言う自我とは、他者や世界との関係を写した自己意識のことである。 本研究の目的は、主題表現(主題意識の造形化)をめぐる構造やダイナミズムの特質を明らかにしつつ、現代の青少年における主体性の回復、さらには自我の確立を、一貫した統合的理論の展開の視点から太い線で把握することにあった。この目的を実現させる美術教育の営みを「『題材と主題表現の関係』による教育」と定義することにした。またこの方法論は、題材に自分の生や世界を切り取るための切り口として、意味を持たせるところに独自性があり、どちらかといえば題材の方に比重が置かれている点を考慮し、簡潔に「題材論的方法」と呼ぶことにした。 もとより本稿では、この方法の有効性と臨床的有意性を検証することがメインテーマとなった。題材によって動機づけられた「主題」意識の「造形表現」化、さらにはそのプロセスには葛藤を伴うも、画面に首尾良く実現されたリアリティとしての主題を感受する体験、言い換えればその人間形成的意味を味わうという、軸線に潜んでいる教育のシナリオを析出する試みに他ならない。
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