研究概要 |
書字学習をすすめるためには,基本的な運筆機能を獲得していることが必要である。この運筆機能は,幼児期の描画を中心とした表現活動の中で獲得されていくものと考えられる。そこで本年度は,まず就学前の書字学習初期にある年長幼児を対象にして,描画の発達状態と運筆機能の獲得状態との関係を分析し,書字学習の基礎的活動としての表現活動の意義について検討した。個別に筆圧の調整状態を分析した結果,教示通りに筆圧を変化させることができない者がおり,その数は描画の発達月齢が低い群に多い傾向がみられた。すなわち,教示に応じて適切に筆圧強度を変化させるなど,固有の筆圧との関係で自らの筆圧を調整するような運筆機能の獲得には,筆記用具を用いる描画活動の積み重ねが重要であることが示唆された。さらに,小学校に在籍する児童の中には様々な原因により書字学習に困難を示す子どもたちが少なからず存在しており,そのような子どもたちの発達特性に応じた書字指導プログラムが求められている。そこで,その作成過程の一環として,書字結果に与える筆圧の影響や,その改善を促すための指導方法の検討を行った。本年度は,主に通常の学級に在籍する児童を対象として,一斉指導における書字指導方法の検討と,書字学習に困難を示す児童の書字特性,筆圧特性,関連する認知特性等に関する資料の収集を実施した。その結果,字形に崩れがみられた児童の中に,筆圧が極めて高い児童が存在していたため,指導的な働きかけを実施したところ急激な改善をみることができた。これらの結果も含めて,小学校における指導方法と関連させた筆圧改善のための手掛りを探った。
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