研究概要 |
書字学習の初期にある子どもの中には,基本的な運筆機能を獲得していないために学習がスムーズに進まない子どもが存在する。このような子どもたちに対しては,つまずきの状態に応じた指導プログラムが必要である。そこで本年度も昨年度に続いて筆圧に焦点をあて,1)昨年度に資料の収集を実施した書字学習困難児2名のその後の改善の状態の追跡検討,及び2)利き手による運筆機能の発達特性に関する基礎的資料の収集を主な内容として実施した。まず,書字学習困難児のその後の状態について分析した結果,1名の児童の筆圧は適度な強さの値に改善されており,筆圧の意識的な調整もかなり正確に行われるようになっていた。また,同時に収集を行った書字サンプルからも字形の顕著な改善がみられた。また別の1名の児童も普段の描画や書字においては筆圧にみられる困難はないものと思われたが,意識的に強さを調整する必要性が生じた場合にはその調整が不十分な状況が生じる可能性が示唆され,運筆機能に関与する微細な運動調整においては更なるかかわりが必要であると考えられた。一方,利き手による運筆機能の発達特性に関しては,左利きの児童の筆圧は右利きの児童に比べて全般的に高い傾向にあり,しかも左利きの児童の中には筆圧の意識的な調整が不十分な児童が多い傾向にあることが示唆された。左利きの児童の場合,筆記用具の持ち方を学習する機会が少なかったり,運筆の方向性(上から下,左から右)などによって右利きの児童に比べると特別な工夫が求められる場合が多いことが予想され,一斉指導において,左利きの児童にも配慮した指導法の検討が必要である。
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