本年度は、本科研費の最終年度であり、4年間の研究成果報告書を仕上げたことが特筆すべきことであった。本研究期間内に、筆者は3つの大きな実験を行った。その第3番目の報告(実験3)が今年度の主目的であるので、その研究報告を以下に記載したい。 日本語の束縛形式である「自分」の持つ3つの文法特性、主語指向性、局所束縛性、長距離束縛性の習得を題材に、言語習得の臨界期仮説について第二言語習得研究の立場から考察を加えた。被験者は、日本に連続して5年以上在住し、かつ日常生活で日本語を頻繁に使用している59名の英語母語話者である。独自に作成した絵を用いて、真偽テストを被験者に課し、「自分」の3特性の習得を調査した。実験結果として、被験者全体では、学習開始年齢が高くなればなるほど、真偽テストでの成績が下降して行く傾向を示した。しかし、滞在年数が10年以上の被験者に限って分析すると、同一の下降傾向は見出されなかった。すなわち、思春期を過ぎた学習者であっても「自分」の特性が習得可能だということである。学習開始年齢にさほど影響を受けない文法項目が存在し、普遍文法(UG)の原理はそのような項目である可能性が示唆される。ただし、Shirahata(2002)で調査した子どものL2学習者と、その習得に要する時間に大きな差があり、このような習得に要する時間の差が年齢効果なのかも知れない。 以上が実験3の内容であり、実験1と実験2の結果とともに研究成果報告書に掲載した。
|