研究概要 |
高等学校家庭科教育の成立過程の研究に関しては,申請者のこれまでの研究以外に,朴木佳緒留らの先行研究があるが,それらにおいては教科として成立したこの教育がどのように定着して行ったかという展開部分の研究は行われていなかった。しかし,この度の科学研究費の交付によって,米国側資料検討の精緻化並びに実験学校や指導主事を対象としたフィールド調査が実現したので,既存の家庭科教育史の空白を実証的に埋めて,学問の発展に寄与することができたと思っている。 さて,主な研究成果として,次の5点を挙げることができる。 第一点目は,日本敗戦後の高等学校家庭科教育改革構想が,米国において既に大戦中に検討されており,戦後の一連の米国側重要教育改革報告書の中にその精神が生きていたということである。 第二点目は,CIEと文部省が取った家庭科教育政策のうちで,最も重要なものの一つに,指導的な家庭科教員の養成があり,現職教育のための各種研修会,特にIFELを通して,それが実現されたということである。 第三点目は,徳島県の新教育の実践記録や同県立脇町高等学校所蔵の公文書から,この県においては,ホーム・プロジェクト並びに学校家庭クラブの導入を特徴とする新家庭科の定着の速度が速く,かつ着実に行われていたことが判明したことである。 第四点目は,文部省指定並びに都道府県指定の実験学校の記録から,これらの学校が新家庭科教育の研究と普及に大いに寄与したということである。 第五点目は,実生活の改善のために,CIEと文部省が推奨した,映画『明るい家庭生活』や,ホーム・プロジェクト及びユニット・キッチンがどのような役割を果たしたのか,また限界を持っていたのかという点が明かになったことである。 以上をまとめると,高等学校の新家庭科教育は実生活の改善を根本精神とし,ホーム・プロジェクトやユニット・キッチン等を通して,それを果たそうとした。そのために指導主事や指導的教師には様々な研修活動が与えられ,また,文部省・都道府県指定の実験学校は先駆的実践を積み上げた。加えて,ホーム・プロジェクトと台所改善の方法を示す啓蒙的な映画も製作された。このようにして,新しい家庭科教育は現場に定着していったということである。
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