本研究は、日本人英語学習者が外国語でコミュニケーションを行う際に生じる誤解は日本との文化の違いに起因するものと位置づけ、その誘因を教科書に表れた不適切なコミュニケーションの用例にあると仮定し、高等学校英語オーラル・コミュニケーションA教科書の語用論的な分析を通して、日本の英語教科書の特徴を語用論の立場から特定し、今後の教材開発のあるべき方向を示唆することを目的としている。 平成11年度は、第1に異文化語用論の文献研究を進め、特に日本人英語学習者の語用能力に関する研究を概観し、第2に高等学英校英語オーラル・コミュニケーションA教科書のうち、10冊に限定して予め設定した10個の発話行為について教科書の対話例をすべて抽出し、分析した。そして、抽出された発話の状況を、話者間の人間関係(社会的地位、社会的距離、発話行為の影響の重さ)における社会文化的適切さの視点から分析した。 研究の結果、分析した教科書においては、発話行為を含む対話が年齢、人間関係などにおいて類似した人間関係をもとにして作成されており、逆に緊張関係を伴う対話(「不平を言う」など)は表れないことがわかり、異文化コミュニケーションにおける反対意見の陳述を含めた自己主張を支援する教材の必要性を指摘した。また、この研究実績の中間報告は、平成11年度中、3つの学会・研究会の場で口頭発表された。 来年度はさらに残った高等学校英語オーラル・コミュニケーションA教科書の分析を完成するとともに、分析教科書の発話行為別データベース化を図り、発話行為別の特徴に焦点化した研究を深めるとともに、海外の代表的英語スピーキング教材を研究対象に広げ、今年度の研究と併せて日本人英語学習者の異文化コミュニケーション能力養成をめざした英語教材開発のあるべき方句を提言する。
|