本研究の成果は、次の4点である。 第一は、中学校段階の子どもの歴史理解の基底をなすものは物語的理解であり、この年齢段階の子どもは歴史事象に関するデータをもとに物語内容を多様に創出する力を発達させていること、そして学習内容を深化発展させるすぐれた授業は、この子どもの物語構成力を活用した授業であることが明らかになったことである。 第二は、物語的展開を中心とした歴史授業は、概念的な抽象度が決して低くなく、多くの場合、時代構造的な概念を言語表現の中に含んでおり、歴史授業の物語的構成と概念探究的構成とは矛盾・対立する方向ではないことが明らかになったことである。従来、ややもすれば両者は対立的にとらえられ、歴史授業の物語的展開は歴史学習の科学性を低下させるかのようなとらえ方がされてきた。しかし言語表現の観点からすれば、いかに構造的な概念といえども、子どもの歴史理解に即した「語り」の世界で描き出すことは可能である。 第三は、歴史事象を語ることばのレトリック性、物語言述は、学習の対象となっている教材、題材によって自在にたえず変化していることが明らかになったことである。このことは教師のことばにもある程度現れるが、特に子どものことばに明確に現れる。 第四は、教師教育における、歴史授業担当教師の指導力の発達過程が明らかになったことである。経験を積んだ教師は子どもの日常的なことばから出発して徐々に概念に向かうような学習過程を組んでいたり、歴史事象を語ることばの構成においても、現在性と当時性との間を何度も激しく往来させている。
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