初年度のElectro glotto graphyによる声帯振動の計測で、声門閉鎖率の変動係数が大きい、すなわち声帯振動が不安定であるとみなされた10歳および12歳の2症例のその後の吃症状に変化はみられず、慢性化している。変動率の低かった11歳の症例の予後は良好である。低年齢症例も非吃音群に比較すると高い変動率が認められたが、その予後はいくらか波はあるが症状は持続している。本研究が対象とした吃音児7名に関しては、吃症状の持続(重症度)と声帯振動の不安定性との関連が示唆された。一方、構音器官の交互反復運動の回数と変動率をみると、年齢が低い(4歳〜6歳)吃音児は非吃音群との違いは認められず、年齢の高い吃音児では反復回数が少なく、変動率が高いという結果であった。この結果から、構音運動能力の低さが吃音を生じさせるのではなく、長年の吃音発話経験が構音運動に影響を及ぼしていると考えられた。声帯振動の安定性については、吃音経験の短い低年齢の段階から、吃音児と非吃音児との間に違いがある可能性が示唆された。 本研究の目的である、吃音が自然治癒するのか慢性化していくのかの鑑別診断の指標として喉頭調節(声帯振動)が有用であるかについては、今後発吃から2年以内の症例を対象とすることでより明確になっていくと考えられる。但し、発吃から時間が経過していない幼児を対象とする場合、歴年齢5歳以前では教示に視覚的手がかりを用いるなどの配慮が必要であることが明らかとなった。今後、吃音の症例を増やして、本研究の結果から示唆されたことを検証していくとともに、より低年齢児を対象とする場合の正確な検査資料の収集方法の工夫も課題であると考えられる。
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