平成11年度は、統計的手法を用いた文型の類型化を目指し、論理展開が明示的だと考えられる専門分野の論文のうち、科学技術論文(物理学論文、工学論文)38編を資料として、論文中の文型の使用頻度を調査した。具体的には、中・上級文型を中心に、単文型、節末文型、文末文型のほか複合辞、接続詞も含む106項目の文型項目と、論理展開に役割を果たすと考えられる漢語語彙9語句の合計115項目の各使用頻度を調ベた。そして、一文当たりの頻度に換算し直した値を求めて、各文型項目の出現率とした。なお、出現率を調べるにあたっては、用字の差異(例:〜にともなって/に伴って)、文型項目の活用変化の形(例:〜によって/により/によるN)、文末表現の文中での変化(例:〜にすぎない/にすぎず/にすぎぬ)の形を同定して同一文型項目として扱い、全数調査を行った。106の文型項目うち連体詞等を除いた98の項目を機能の観点から30の文型グループに分類し、その各文型グループごとに多変量解析法(判別分析法)を用いて分析を行った(資料の大きさの差異は事前確率を用いて調整した)結果、物理学論文、工学論文の文章の文型的特徴が近いことがわかった。さらに、この結果を、昨年度の研究成果である他の3ジャンル(経済学教科書、新聞社説、文学作品)の文型の使用傾向と合わせて新たに分析を行った結果、論理構造が明示的だと考えられる物理学論文、工学論文、経済学教科書に共通して多用される文型項目が抽出され、文型の機能としては、「理由・帰結」「定義」「例示」「場所」に関係する文型項目群が重要な働きをしていることが明らかになった。また、漢語語彙のうち「理由・帰結」に関係する語彙群も明示的な論理展開を持つ文章では使用頻度が高いことが確かめられた。 なお、現在は文型検索とその整理作業のためにかかる膨大な時間の短縮を目指し、検索プログラムの改作を進めている。
|