研究概要 |
われわれは今回の研究テーマである知的機能の脳内の時間的・空間的トポグラフィの解明と前頭葉機能の本質に迫るために、側頭頭頂領域を含む大脳後半部の機能低下を特徴的とするアルツハイマー病(AD)に対して、SPECTによる詳細な検討を行った。まず初期ADにおける海馬領域の血流低下について、この部位の評価を正確に適した海馬長軸平行像の有用性について検討した。初期AD患者10名と健常対照者8名について頭部SPECTに関心領域(ROI)を設定し、通常のOM lineに平行な横断像と海馬長軸平行像とを比較したところ、初期AD群が健常対照者群に比し、海馬長軸平行像上の両側側頭葉内側領域における脳血流のみ有意に(p<0.05)低下していた(Nebu et al,2001)。次に認知機能障害に基づく正確な重症度分類をおこなった対象者についてSPECTによる血行動態の比較を試みとしてAD患者90名対して、認知機能の低下を正確に反映する質問式検査法(小森・田辺,2000)であるAlzheimer's Disease Assessment Scale(ADAScog)を施行し、この得点により5段階の重症度群に分類し、各グループ間のSPECTのROIを比較した。その結果ADは初期の段階で両側の海馬領域に限局した血流低下を認め、それ以降は重症度が増しても同部位に著明な変化はなく、側頭-頭頂領域の血流はADの重症度に相関して低下し、前頭領域の血流は重症度が軽・中等度では保たれ、重度に達してはじめて低下することが示された(Nebu et al,in press)。ADにおいて発症後少なくとも初期では保たれ、かなり進行した段階で突然低下するという非階段状の変化を示す前頭葉機能は、脳内の他の領域とは明らかに異なる機能的意義を持つと推測された。
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