研究概要 |
パッケージ消費商品において価格競争は非対称であることがの今迄のマーケティングの研究で実証されている。これは、高価格、高品質の商品による価格プロモーションが低価格、低品質の商品のシェアを勝ち取る効果の方が、低価格、低品質の商品による価格プロモーションが高価格、高品質の商品のシェアを勝ち取る効果より大きいことを意味する。その理由として消費者行動理論の側面からは下記の3つが提案されている:(1)消費者選好の異質性効果(heterogeneity effect)、(2)経済学に基づいた所得効果(income effect)、そして(3)心理学に基づいた参照点とそのロス回避効果(reference and loss-aversion effect)。これらの説明は異なった研究者が異なったデータを使い異なった方法論によって独自に提唱された。価格競争の非対称な現象はマーケティングにおいて、実務そしてアカデミック研究の両面から非常に重要な課題であるにもかからわず、この3つの説明を同じ枠組みで比較しどれが一番妥当なのかと言う研究は現在まで行われていない。本研究では、以下の考察が得られた。 (1)競争の非対称性を測定する上での適切なメトリックの選択:Sethraman,Srinivasan,and Kim(1999)に基づいて、交差弾力性ではなくブランド選択確率の価格に対する微分係数とする。 (2)今まで確認、重複研究に欠いている最初の2つの説明における弱点:Blattberg and Wisniewski(1989)の提案した消費者選好の異質性効果による説明は、世帯レベルのデータでは確認されておらず仮定の域を超えていない。パネルデータを使って世帯ごとのパラメータをベイジアン手法によって推測した結果、異質性効果では説明が困難である。所得効果による説明(Allenby and Rossi1991)は理論モデルに購買量が連続的であるという弱点がある。この弱点を改善したモデルをパネルデータで検証した結果、統計的に有意な所得効果は観測されず、非対称性の原因とは考え難い。 (3)いくつかの実験および実証研究によって確認された3番目の説明の再検討:競争の非対称性は、ロス回避効果のみで十分に説明ができ、参照点の存在は不必要である。したがって、価格競争の非対称性は、経済学において使われるリスク回避という弱い仮定の当然の結果である。 実務上のプロモーションに対するインプリケーションとしては、低価格ブランドでは値引きより品質の向上がより効果的であることが言える。
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