認知型ヒューマンエラーは従来、本人の不注意、と片づけられ、エラー発生のメカニズムについて、注意深い解析、対応がなされてきたとは言い難い。しかし、一見再現性の無いヒューマンエラーも、ある条件が整うと、必ずといってよいほど再現されると思われる。そこで、本研究では、いかなる環境条件において人間のエラーが発生するものかを明らかとする新たな認知行動モデルを作成し、さらにそのモデルの妥当性を実験により実証することを目的とした。 平成11年度は、研究の初年度として、以下の検討を行った。 1.ヒューマンエラー事例の収集:新聞記事を中心に、ヒューマンエラーによる事故事例を約200例収集した。 2.事例の分類:収集した事例を、その外形的類似性、及び、Normanらのヒューマンエラーモデルなどをもとに、分類した。 3.発生形態の検討:分類ごとに、エラー発生者、タスク内容などの、エラー発生形態を検討した。 以上により、以下が明らかとなった。 1.初心者が知識不足によるエラーを起こしがちなのに対して、認知エラーは熟練者が起こす。 2.知覚エラーは、初心者も熟練者も起こすが、熟練者では、欠落する情報を過去の経験により補う行動をとる。このことは、通常と同じ状況であればエラー回避につながるが、通常とは異なる状況であれば、見込み違いの認知エラーとなる。 3.運動エラーは、技量不足の初心者熟練者では、ある程度、巧緻能力により回避される。 4.時間的切迫感が、強力な行動形成因子として作用し、各エラーを発生しやすくする。 5.作業環境、職場環境等の行動形成因子は、職場離脱願望として作用し、結果的に時間切迫感と同等の作用をする。 以上の結果をもとに、認知型を含む人間の能力に関係するヒューマンエラー発生の枠組みを明らかとし、その枠組みを説明するための基本モデルを作成した。さらにヒューマンエラーコントロールのための実験方法について検討した。
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