産業事故の起因源として、ヒューマンエラーがある。ヒューマンエラーは、作業者本人の注意力を喚起することでカバーされがちである。しかし、このことは裏返すと、注意をしなくてはならない作業機器、あるいは作業システムに作業に従事させていることが問題であるといえる。また作業者本人に注意を期待する場合であっても、具体的に何に、どの様に注意すればよいのかが明らかにされなければならない。そのためには、ヒューマンエラーの発生条件を対策指向で明らかとした上で、ヒューマンエラー防止指針が示される必要がある。本研究では、いかなる環境条件においてヒューマンエラーが発生するものかを明らかとする認知行動モデルを作成し、エラー抑止のためのシステム設計指針を得ることを目的とした。まず各種認知行動モデルの収集を行った。そして原子力発電所などでの人間要因に起因する事故事例を幅広く収集し、各事故を梯子モデル上で検討した。その結果、認知型のヒューマンエラーは、熟練レベルにより発生形態が異なり、熟練とともに、内的記述型スリップエラーが増加すること等が示唆された。そこで、熟達過程と認知行動との関係を検討する実験を行った。その結果、熟練とともに知識が内的に蓄積されるので、予測行動は出来るが、判断が省略され、状況の変化に気がつかないという、いわゆる不注意型エラーが発生することがうかがわれた。これらの成果をもとに、エラー防止のためのシステム設計ガイドラインへ盛り込むべき内容について産業場面への調査を行い、その結果を踏まえ、「ヒューマン防止のためのシステム設計指針」を作成した。
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