アンケート調査による母集団構造の解析は、新商品開発や各種の新戦略・戦術企画に際して最も多く用いられる手法の一つであり、特に因子分析法に代表される線形構造方程式モデルや共分散構造分析法が頻繁に活用されている。これらの手法やモデルは、活用される標本は単一母集団あるいは多母集団からにランダムサンプリング法によって得られていることを前提条件の一つとしているが、現実には、得られたサンプルを特定の質問項目に対する応答のあり方や項目源に対する応答のあり方によって標本を幾つかのグループに層別し、各層間での構造の比較を行うことがなされる場合がある。その場合、活用されたサンプルは各層(あるいは各グループ)から標本のサンプリングを行う前に計画的にサンプリングされたもの、すなわち事前層別によるランダムサンプルとは成り得ないことは明白である。このことは統計解析者にとっては周知の事実であるが、適当な解析方法が存在しないこと、ランダムサンプルであるとの仮定に基づく慣習的な解析によるデメリットが定量的に明らかにされていないことなどを主たる理由として軽視(無視)されてきた。 本研究では、解析対象の標本が一組のランダムサンプルから事後層別によって構成されていることを前提条件とした上で、(1)従来から慣習的に行われている方法がどのような悪さをもつかを明らかにすること、具体的には推定量のバイアスや誤差分散がどのような影響を受けるか、(2)元の母集団で成立していた因子分析モデルなどの統計モデルが層別後の母集団においてどのように影響を受けるか、などということを研究してきた。 本年度は、こうした事後層別が主成分分析法に対してどのような影響を及ぼすかを研究すると同時に線形構造方程式モデルにおける事後層別の影響について研究してきた。その結果、因子分析モデルに関しては、ある種の条件が成立する場合、事後層別された母集団においても因子分析モデルは成立するが、得られる因子構造は各層毎に影響を受けていることを明らかにした。具体的には、Muthen(Psychometrika[1992])およびSkinner(Psychometrika[1984])が得ている事実と同等であるが、一部の観測変数による事後層別では、事後草月された母集団においても因子分析モデルは成立するが、事後層別の基準となった変数対する因子構造は変化し、その他の変数は影響を受けないことを明らかにした。 線形構造方程式モデルに関する理論的な研究成果を得るには至っていないが、実データの解析を通じて幾つかの知見を明らかにし、アジア品質管理シンポジウムにおいて山来寧志君(博士後期課程3年)との共同研究の形で研究発表を行った。また、主成分分析法に関しては、同シンポジウムにおいて抽出されるべき主成分数が影響を受けることを経験データで指摘すると同時に、若干の理論的考察を行った。
|