研究概要 |
ある母集団から無作為に抽出された観測個体について,観測ベクトルXについては全観測個体に関する情報が役立つが,観測ベクトルyについては特定の観測個体に関してだけデータが収集されている場合は,Anderson(1954,JASA)による正規集団での議論を延長した形で議論できる.あるいはMuthen他(1989,Psychometrika)による欠測値の考え方を適用することも可能である.しかし,観測ベクトルX自身の関数によって観測個体が観測されるかどうかが決定される場面においては,観測個体の独立性が欠如するためこれまでの議論が単純に拡張できない.研究では,こうした状況を具体的な例題とシミュレーション実験の結果によって明らかにし,そこで発生する問題点を明らかにした. ところで,検討的因子分析モデルにおける事後層別の問題を検討する中で,層別後の因子分析モデルに関する識別性を明らかにする必要性が発生し,優れたテキストであるBollen(1987)を含む多くの論文では明らかにされていないモデル識別のための必要十分条件を研究した.その結果,モデル識別のための条件を従来のモデルパラメータによる記述から相関係数に基づく記述に変更することで,小行列式を用いた新しい必要十分条件を提案した.さらに,モデル識別問題と不適解の問題についても言及し,いくつかの数値事例を紹介した. 線形構造方程式モデルやその他の統計モデルにおける事後層別,事前層別にともなって発生するデータ解析は,母集団の選択問題や欠測値問題として定式化できることを3年間の研究活動の中で明らかにし,現在,その理論的な成果を整理しつつある.
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