本研究では、大気が土壌空隙を通して火山ガスに流入していることを問題提起し、さらにその流入の物理的メカニズムを観測実験や数値シミュレーションによって明らかにすることを目的としている.本年度は、九重硫黄山火山で、(1)約20ケ所の噴気孔において、噴気放出量の実測(ピトー管を用いた流速測定と密度測定)、(2)噴気凝縮水の水素・酸素同位体比(δD・δ^<18>O)の測定、(3)噴気ガスの主要・微量化学分析を行った. すでにOhsawa et al.(2000)で報告した、噴火時(1995年10月)における大量の大気成分(土壌空気)の流入と同様の現象が、非噴火時においても起こっていること、即ち、流量の多い噴気ほど、大気成分の混入率に敏感に応答するHe/Ar比が小さい(大気成分の混入率が高い)傾向のあることが判った.また、噴気の99%以上を占める水蒸気についても、He/Ar比と同様に、流量の多い噴気ほど、地下水の混入に敏感な噴気凝縮水の水素・酸素同位体比が小さい(地下水の混入率が高い)ことが新たに判明した. 後者の観測結果は、水理学ではよく知られている井戸水の過剰汲み上げによる井戸周辺部における地下水位の低下と類似の現象が、火山の噴気地帯でも起こっていることを示唆しており、火山性流体への浅層地下水の流入とそれに引きずられて起こる地下水帯水層上部の土壌空気の取り込みという新たなメカニズムが見えてきた.今後、このようなメカニズムの出現の可能性を確かめるべく、数値シミュレーションを行う計画である.また、今回採取した噴気ガス試料について、地下水と土壌空気の双方に含まれている成分、即ち、二酸化炭素について、その炭素同位体比(δ^<13>C)の測定を行う計画もある.
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