研究概要 |
火山体土壌空隙を介しての火山ガスと大気の相互作用を視野に入れた噴気ガスの形成機構の解明を目的とした観測研究等を行い,補助金の交付を受けた3年の研究期間内に以下のような成果が得られた. (1)観測に用いるガス採取法(改良注射器法)は大気のコンタミネーションを受け難く,その方法によって採取された噴気ガス試料中に検出される空気成分は,大気に直接由来するものでなく,地下で付加されたものであることを示した. (2)九重火山の九重硫黄山噴気地域から放出される噴気ガスの化学組成と水蒸気の安定同位体比を測定し,それらを用いてマグマ性ガス・天水・空気の混合比率を求め,水蒸気の同位体比とHe/Ar比との間に見られる線形関係や天水と空気の混合比から,地表直下に形成されている通気帯において深部から上昇してくるマグマ性ガスに天水と空気が同時に混入していることを示した.この通気帯内混合モデルに立脚すれば,通気帯内の水と空気(通気帯水と通気帯空気)の存在度が噴気ガスの化学組成や噴気水蒸気の同位体比に投影されることが予想でき,1960年代〜1980年代の九重硫黄山や薩摩硫黄島で観測された「噴気水蒸気の同位体比は典型的なマグマ性の値を示すが,He/Ar比はマグマ性の値を示さない」という一見不可解な観測結果をうまく説明できる. (3)噴気ガスの孔口噴出速度とマグマ性ガスへの通気帯空気の単位時間当たりの混入量との間に高い正の相関関係があることを発見し,「流速の大きい噴気ガスほど多量の通気帯空気が流入している」ということを認めた.また,噴気密度と噴気温度を考慮に入れた流体力学的な思考実験を行い,高速のマグマ性ガスの流れによって通気帯内の流体が噴気ガス流路内に吸い込まれることを示した.
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