反応性スパッタリング法で作成される膜の組成比制御は、導入される反応性ガスの流量と放電電流密度を制御することで原理的には可能であるが、現実には反応性ガスの流量を変化させると、放電電圧や成膜速度だけでなく膜組成においてもヒステリシスを伴う大きなモード変化(金属モードと酸化物モード間の遷移)が発生する。 本年度は、ITO透明導電膜やMgO電極保護膜(高い二次電子放出係数を有し、かつ耐スパッタに優れた誘電体膜)などの高機能・高品質電子薄膜材料製造に重要な反応性スパッタリング素過程の解明と制御を目的として、直流プレーナマグネトロン放電中のITOとMgOの反応性スパッタリング過程について主に導入酸素量とプロセス状態の関係について実験的・理論的に検討を行なった。 ITOターゲットを用いた実験では、レーザー誘起蛍光法と発光分光法によるプラズマ空間分布を詳細に明らかにし、成膜速度・膜抵抗率等の膜計測と比較検討した(1999年、Thin Slid Film誌に掲載済)。この実験を通じて、導入酸素量変化に伴う反応性スパッタリング特有のモード変化が確認されたが、ITOは3元系の酸化物ターゲットであることから、その定量的な解析は以外に複雑であることがわかった。一方、Mgターゲットを用いた反応性スパッタリングでは、ターゲット表面がMgとMgOの場合で極端に電子特性が異なるため、明確なモード変化が発現し、定量解析に好都合であることが認識された。そこで、Mgターゲットでの実験結果をもとに、定量解析を試みた。ターゲットと基板上でのガス吸着・脱離の粒子バランスに基づく従来の定性モデル(スウェーデンUppsala大学のBerg、1988年)を基礎として、反応性ガス流量の変化に伴うターゲット表面の二次電子放出係数の変化とそれによる全放電電流に対するイオン電流と電子電流比の変化を考慮することにより、より定量的なモデル化が可能であることがわかった(速報を2000年1月に公表済、詳細は今後公表予定)。
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