バナジウム(V)を核融合炉構造材料として用いる場合の課題は照射脆化の改善である。照射脆化を改善するためには微細結晶粒・粒子分散組織が最も有効であり、この組織はメカニカルアロイング(MA)を含む粉末冶金法により導入可能である。しかし、Vは化学的に活性であるため、粉末冶金製造工程中に多量の酸素や窒素が混入・固溶し、それにより延性が著しく低下するため、V本来の優れた延性を損なうことなく微細結晶粒・粒子分散組織をもつVの製造に成功した例は報告されていなかった。そこで本研究では、まず、粉末冶金製造における延性低下を克服する方法を示した。この方法では、延性低下をもたらす固溶酸素・窒素と微細分散させたYとの反応により熱的に安定な化合物(Y_2O_3、YN)を析出させ、固溶酸素・窒素をV母相から除去すると同時に分散粒子形成のために活用する。そこで、VにYを(1.6~2.6)wt%添加し、MAにより強制固溶させた後、HIPにより析出処理と焼結を行った。得られた試作材は、V母相に固溶酸素と窒素を含まず、77Kでも衝撃3点曲げ試験で破断せずにフルベンドするという優れた低温延性を示した。焼鈍と冷間圧延が組織と機械的性質に及ぼす効果を調べた結果、試作材はHIP後に塑性加工を施さなくても優れた延性と強度を示すこと、延性と強度の最適なバランスは1373K焼鈍後に得られることが判明した。1373K焼鈍後の平均結晶粒径は350nm、分散粒子径が10nmと極めて微細であった。次に、日本原子力研究所のJMTRを用いてはじき出し損傷量0.7dap、照射温度563〜1073Kの範囲で高速中性子を照射し、照射後の組織のTEM観察、および照射脆化の原因である照射硬化を評価するためにビッカ-ス微小硬さの評価を行った。その結果、多くの試作材で照射誘起<110>双晶が観察された。また、試作材では照射硬化は小さく、特に双晶が観察された場合には、照射脆化の顕著な563K照射後も照射硬化はゼロに近かった。この結果は試作合金が優れた耐照射性を示すことを示唆している。
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