次世代の薄膜太陽電池として、CuInSe_2やCuInS_2などの薄膜(以下CIS薄膜と略称)を光吸収層とするものが注目されているが、太陽光をより効率的に吸収するためにはこの光吸収層の高品質化が必要である。一方、太陽電池が宇宙空間でのエネルギー確保という観点から見て有効な発電手段であることは従来より指摘されているものの、CIS薄膜太陽電池が宇宙という極めて厳しい環境下でどのような特性変化を示すかについてはほとんど報告されていない。そこで本研究では、レーザーアブレーションによって作製したCIS薄膜に光子エネルギーの高い放射光を照射することによって、宇宙空間における同薄膜の特性変化の一端を明らかにすることを目的としている。 まず初年度はCIS薄膜を福井工業高等専門学校で作製できるようにするため、本補助金を利用して購入した真空チャンバーと、既に購入済みのエキシマレーザーを組み合わせてレーザーアブレーションシステムを構築した。その結果、2種の2元化合物粉末を混合してプレスしたターゲットにレーザーを集中させてアブレーションを起こすことができるようになり、ガラス基板上にCIS薄膜が堆積した。作製した薄膜サンプルはX線回折装置やX線光電子分光分析装置、走査型電子顕微鏡等を用いて分析し、その結晶構造や組成、表面状態等について放射光照射前のデータを収集した。平成12年度は昨年度に作製したサンプルを兵庫県作用郡にある実験施設Spring-8に持ち込んで放射光の照射を行った。そして福井高専内に既設の分析装置等を用いて、放射光照射前後におけるCIS薄膜の結晶構造の変化などについて検討した。同時に、Cu原子中の2p->3d遷移に対応する吸収測定を行った。 光照射したCIS薄膜サンプルは結晶構造の面ではほとんど照射前と変わらない特性を示し、一面ではあるが同薄膜の宇宙空間での安定性を示唆する結果となった。またCu 2p->3d吸収測定から、伝導帯の電子構造に関する基礎的な情報を得ることができた。今後はXAFS測定等も行って、さらに詳細に検討する必要があると考えられる。
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