高レベル放射性廃棄物の地層処分において、処分地層の遅延効果の評価は処分システムの安全評価において大変重要である。しかし、地層は様々な岩石からなり、またその存在する化学的条件も場所によって異なる不均一な状態にあるため、地層中での遅延効果は一様でない。現在、それぞれの要素についての研究は多く行なわれており、数々の知見が得られているが、地層処分システム全体としてみたときに、それらの要素が相互にどのような影響を与えるのかは未だ十分な検討がなされていない。 そこで、本研究では遅延効果が一様でない系を作成しトレーサー応答を実験的に得るとともに、数学モデルを作成し、その妥当性の検討および遅延係数の不均一性が系全体に及ぼす影響を検討した。 (1)物理モデルによる実験および数値モデルの作成 移流、分散、遅延効果、崩壊等を考慮した二次元の数値モデルを作成するとともに、充填粒子としてシリカを用いEuをトレーサーとした二次元流動実験を行った。両者の結果を比較し、数値モデルの妥当性を確認できた。なお、流れに垂直な方向に遅延係数を分布させた実験結果は、数値モデルにおいて混合拡散係数の異方性を厳密に評価しなくとも、計算結果と良く一致した。差分には数値誤差を軽減させるために三次精度を採用した。 (2)全体の遅延効果に及ぼす空間的なばらつきの影響 検証した数値モデルにより遅延係数の分布パターンを種々設定し、そこから数値的にインパルス応答を得た。それらの応答を、遅延の効果の空間的なばらつきを幾つかの統計量によって整理することを試みた。その結果、遅延係数の頻度がある確率密度関数に従いかつ空間的にランダムに分布する場合は、全体の遅延効果を評価する上で必要となるのは遅延係数の算術平均値、標準偏差および歪度であり、確率密度関数の種類に依存しないことが分かった。これは、確率密度関数が対数正規分布の場合にもあてはまり、系全体の物質移行を表すためには遅延係数の幾何平均よりも算術平均値の方が系を代表する。 (3)まとめ 全体の遅延効果を支配する上で必要となる不均一性は、流れ方向に垂直な分布であり、それが層状になっている場合は評価する系の大きさに対する層の数が重要である。層の数が十分に大きくなると破過曲線はみかけ上混合を受けた形になり、遅延係数の算術平均値によって系を代表できるようになることが明らかになった。
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