研究概要 |
北海道北部の多雪小流域では,10数年間に渡り継続的に水文・気象観測が行われている.本研究では,これらの観測結果から水収支の動向を明らかにし,長期的な流域貯留量の変動を推定した.また,気温を変数とした水収支モデルを構築し,積雪貯留量が流域水収支に及ぼす影響を明らかにすることを試みた.近年,日本各地に暖冬小雪傾向があると言われるが,この地域ではそのような傾向が見られるのか,また,そういった場合に流域水循環にどのような影響が見られるのかを,このモデルを用いて考察した. 得られた水文・気象観測データから10数年に渡る降水量,流出量,蒸発量の各水収支成分の変動と,地下貯留,積雪貯留による流域貯留量の変化の傾向を明らかにした.流域貯留量は,降水が少なく蒸発散が盛んな7月に数10mmと最低となり,降水量が増加する9月頃から増加を始め100mmを越える.貯留量はそれが減少しないまま積雪期を迎え,融雪期直前までの間に多い時で1000mm近いピーク値を示し,融雪期には急激に減少する.このような貯留量変化パターンは,時期的には多少の違いがあるものの,各年に等しくみられた.流域内最大積雪貯留量は,1988年から1999年までの間,約400〜800mmと2倍もの変動が見られた.以上の結果に基づき,気温を変数とした積雪・融雪ルーチン,タンクモデルを用いた流出・貯留ルーチンからなる水収支モデルを構築した.このモデルでの計算結果から,積雪貯留量の大きな年々変化は冬期降水量ばかりによるのではなく,降水の雨雪判別と融雪開始のタイミングを決定する積雪期・融雪期の気温にも大きく依存していることが示された.また,積雪貯留量の大小が夏期渇水期の流出高に及ぼす影響を推定することができた.
|