(1)北海道北部の多雪山地流域では、精度の良い水文・気象観測が十数年間にわたり継続されている。これらのデータを用いて各年の流域水収支を計算し、流域貯留量の年々変動を調べた。また、気温を変数とした積雪・融雪ルーチンとタンクモデルを用いた流出・貯留ルーチンからなる流域水収支モデルを構築し、積雪貯留量の変動が流減水収支に及ぼす効果を検討した。近年、日本各地に暖冬少雪傾向があると言われるが、この地域ではそのような傾向が見られるのか、また、その場合には流減水循環にどのような影響が現れるのかを、このモデルを用いて考察した。モデル計算の結果、積雪貯留量の大きな年々変動は単に冬期降水量ばかりに依存するのではなく、積雪期や融雪期の気温にも大きく依存することが示された。また、積雪貯留量の大小が夏期渇水期の河川流出高に及ぼす影響は小さいことが明らかになった。 (2)上と同じ流域において、全融雪期間にわたって流域内における水及び化学物質の収支を明らかにし、その上で地中での流出過程を考察した。融雪水・混ざり水・地下水から成る3成分モデルによってハイドログラフ分離を行なった結果、地下水の流出寄与分は全融雪期間にわたって約40%とほぼ一定に保たれ、このために、融雪期における流域内での化学物質収支は流出過多になることが明らかにされた。 (3)隣接する2つの森林小流域において融雪期の流出特性を比較した。2つの流域は面積・形状・地質・植生・土壌特性がよく類似しているにもかかわらず、土壌層に顕著な違いがあるために流出特性にもその影響が明瞭に現れた。また、土壌層が特に厚い内部小流域が流出の非ソースエリアとなるため、見かけ上は同じ流域面積でも実質的には異なることが明らかにされた。
|