北海道にある太陽地球環境研究所母子里観測所(北緯44.4度)および陸別観測所(北緯43.5度)において、高分解能型のフーリエ変換赤外分光計を用いた大気微量成分の観測を実施した。アセチレン等の炭化水素のほか、一酸化炭素やシアン化水素のスペクトルを観測することができた。特に、吸収量の少ない成分の観測のためには、日の出や日没時の観測も実施した。また、赤外分光計による高精度観測を維持するために、測定器の光学系等の調整や点検を行ってきた。微量成分の鉛直積分量(対流圏全体の総量)を求めるため、スペクトルのリトリーバル解析を行った。これにより、自由境界層よりも高高度における対流圏微量成分総量を求めることができた。観測された微量成分濃度を時系列としてプロットすると、規則的な季節変動をしていることが明らかになった。しかし季節変動から大きくはずれて、高濃度になるケースもあった。そこで微量成分の濃度変動の詳細を明らかにするために、後方流跡線解析や人工衛星TOMS(Total Ozone Mapping Spectrometer)との比較を行った。その結果、アジア大陸のバイオマス燃焼、特にシベリアにおける森林火災が、本研究で観測した炭化水素、一酸化炭素、シアン化水素などの重要な放出源であることが見出された。このことは、シアン化水素や一酸化炭素が、人間活動が大気微量成分に影響を与える過程を定量的に追跡するためのトレーサーとして有用であることを示している。このことは同時に、北海道における高分解能赤外分光計を用いた観測が、東アジア地域および太平洋域におけるグローバルな大気環境変動を解明するのに、重要な手法であることを示している。
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