森林生態系の酸性降下物に対する反応は窒素の飽和状態によって異なる。試験地のある青森県七戸町における大気由来の窒素の沈着量は窒素飽和が起こる基準値を超えているにもかかわらず、窒素飽和の兆候は認められていない。本研究は、窒素化合物の動態に着目し、スギ林の大気降下物に対する反応に関するモニタリングを中心とした環境動態に関する研究である。 試験地におけるアンモニウムイオン沈着量は植物の生育が盛んになる夏に増加した。これに伴い、林冠におけるアンモニウムイオンの吸収量が増加した。このため、硝酸イオンと合わせた林内雨中の窒素の沈着量は11-13kg ha^<-1>まで減少したが、窒素飽和起こる基準とされる10kg ha^<-1>を超えていた。しかし、土壌溶液中で多かった硝酸イオンも、渓流水中においては低く、窒素飽和の兆候は認められなかった。 窒素飽和に至らない要因の一つとして、塩基特にカルシウムイオンの蓄積が示唆された。スギの落葉中には多くのカルシウムイオンが含まれ、これがリター層および表層土壌での蓄積に寄与していた。カルシウムイオンは硝酸イオンと共に土壌中を移動していたが、多量に蓄積しているため、著しい減少つまり土壌の酸性化が起こりにくいと推察された。また、マグネシウムについても同様の傾向が認められた。加えて、土壌浸透水および渓流水中のナトリウムイオンがカルシウムイオン、マグネシウムイオンと同程度含まれていた。他の試験地では、あまりこの様な例はなく、本試験地の特徴が明らかとなった。
|