研究概要 |
森林生態系の酸性降下物に対する反応は窒素の飽和状態によって異なる。試験地のある青森県七戸町における大気由来の窒素の沈着量は窒素飽和が起こる基準値を超えているにもかかわらず、窒素飽和の兆候は認められていない。本研究は、窒素化合物の動態に着目し、スギ林の大気降下物に対する反応に関するモニタリングを中心とした環境動態に関する研究である。 1996年以来5年間の沈着量と気象データとの関連を解析した結果,夏期に多いアンモニウムイオンの沈着量は,南東および南よりの風の強さにより左右されていることが明らかになった。また,植物の生育が盛んになる夏に沈着量が増加するため,林冠におけるアンモニウムイオンの吸収量が増加した。このことは,試験対象とした森林生態系において窒素が不足していることを示唆している。 しかし,土壌中における物質収支の結果,窒素の形態変化に由来する酸の生成量が酸の全生成量を左右していることが明らかとなった。生成された酸は土壌に保持されているカルシウムイオンなどの塩基とのイオン交換反応および鉱物の化学的風化により消費されていることが示された。これに対して,スギの落葉中には多くのカルシウムイオンが含まれ,これがリター層および表層土壌での蓄積に寄与しており,土壌酸性化を抑制していることが示唆された。実際に,深さ0-10cmの土壌から酸の消費のために溶脱した塩基の量よりリター層からの塩基の供給量が上回っていたことから,試験対象としたスギ林地では著しい土壌酸性化は起こりにくいと判断された。リターの分解速度から相対的に分解速度の遅い試験区ではリター層に塩基が蓄積しており、分解の速い試験区ではリターよりむしろ土壌のイオン交換基に多く塩基が保持されていた。分解速度の差異が塩基の蓄積場所に影響していることが明らかになった。加えて,リター層により浸透水量にも影響していることが示された。
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