本年度は日本各地で日本の代表的な地衣類を採取し、中性子放射か分析と蛍光X線分析で地衣体中の元素濃度を求めた。試料とした地衣は樹枝状のハナゴケ属のハナゴケ、ミヤマハナゴケ、ワラハナゴケ、ヤマトハナゴケなどと葉状のウメノキゴケ属のウメノキゴケ、キウメノキゴケ、マツゲゴケなどである。採取地は北海道から九州までに亘っている。 採取した地衣類は超純水でよく洗い、乾燥し、粉砕した後、中性子放射化分析用の試料を作成した。中性子放射化分析は立教大学の原子力研究所のTRIGA-IIの回転試料棚で5分、F孔で1時間照射した。また長半減期の核種については、日本原子力研究所のJRR-3の気送管で20分照射した。照射した試料は適当な時間冷却後、Ge半導体検出器で測定し、各元素の定量を行った。一部の試料については蛍光X線分析を行い、硫黄、鉛などの元素を定量した。これまでに得られた結果、同じ地域で採取した同属の地衣類については比較的類似した元素濃度を示した。また、同種の地衣については異なった地域で採取した試料についても同様の傾向を示すことがわかった。また、一般的な高等植物に対する元素の必須性、非必須性も地衣類の元素の蓄積に関連があることがわかった。このことは、地衣類の元素蓄積の機構を研究する上で重要な手がかりになることが期待される。
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