研究概要 |
中国と日本より、鼻腔リンパ腫(sinonasal NK/T-cell lymphoma)のサンプルを収集して、遺伝子変異の発生頻度や特徴を調べることにより、鼻腔リンパ腫に影響を及ぼす環境因子や鼻腔リンパ腫の発生機序を明らかにすることを目的とした。鼻腔リンパ腫のp53,K-ras,c-kit の遺伝子変異を"Cold SSCP"法、direct sequencing法にて解析した。中国(北京、四川省成都)と日本(沖縄、大阪)の4地域における鼻腔リンパ腫それぞれ14例、5例、14例、9例の遺伝子変異解析では、p53遺伝子の変異は、それぞれ8例(57.1%)、3例(60.0%)、7例(50.0%)、2例(22.2%)と大阪は低頻度で、変異は、北京、成都ではexon7に、沖縄ではexon5に、大阪ではexon6に多く見られ、変異スペクトラムに地域差が見られた。K-ras遺伝子では3例(21.4%)、0例(0%)、1例(7.1%)、1例(11.1%)で、北京、沖縄例はcodon12 GGT→GCT,大阪例は、codon12 GGT→GATの変異であった。C-kit遺伝子ではそれぞれの地域、10例(71.4%)、2例(40.0%)、3例(21.4%)、2例(22.2%)の変異が見られた。しかも、c-kit exon17の変異のうちcodon825 GTT→GCT(Val→Ala)の変異が、12例中10例(83.3%)(北京7例中6例、成都1例中1例、沖縄3例中2例、大阪1例中1例)見られた。Codon825と同じドメイン(tyrosine kinase domain)に存するcodon816の変異はmastocytosisやurticaria pigmentosaの患者に見られ、gain-of-function mutation(変異により活性化能を持つ)であることが報告されている。Condon825の変異についても、マウスによる変異遺伝子導入実験を行ったが変異による活性可能は見られなかった。地域や遺伝子によりその変異の頻度やスペクトラムにバラツキがあることは、人種差の他に環境因子も大きく関わっている可能性がある。今後さらに具体的に、鼻腔リンパ腫に関わる因子を追究していきたい。
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