研究概要 |
中国と日本の鼻腔リンパ腫の遺伝子変異の特徴を調べることにより、また、同一手技で、解析した膿胸関連リンパ腫や甲状腺リンパ腫と比較することにより、鼻腔リンパ腫に影響を及ぼす環境因子や発生機序を明らかにすることを目的とした。鼻腔リンパ腫のp53,K-ras,c-kit,β-cateninの遺伝子変異を"Cold SSCP"法、direct sequencing法にて解析した。平成11年度症例に24例を加え、中国(北京、四川省成都)と日本(沖縄、大阪)の4地域における、それぞれ16例、5例、23例、22例の解析では、p53遺伝子の変異は、10例(62.5%)、3例(60.0%)、9例(39.1%)、9例(40.9%)と北京、成都に高頻度で、変異は、北京、成都ではexon5に、沖縄、大阪ではexon8に多く見られ、変異スペクトラムに地域差が見られた。K-ras遺伝子では、3例(18.8%)、0例(0%)、1例(4.3%)、2例(9.1%)で、北京例はcodon12 GGT→GCTの他、codon60,62の変異が、大阪例は、codon12 GGT→GATの他codon20の変異が見られた。c-kit遺伝子ではそれぞれ、12例(75.0%)、2例(40.0%)、5例(21.7%)、6例(27.3%)と北京例は沖縄、大阪例に比べ有意に高頻度に変異が見られた。しかも、c-kit exon17の変異のうちcodon825のGTT→GCT(Val→Ala)の変異が、19例中16例(84.2%)(北京10例中9例、成都1例中1例、沖縄4例中3例、大阪4例中3例)見られた。次に、p53遺伝子の変異について膿胸関連リンパ腫(PAL)や甲状腺リンパ腫(TL)と比較すると、変異の発生頻度は、鼻腔リンパ腫、PAL、TLの順に、31/66(47.0%)、14/21(66.7%)、2/21(9.5%)、G:C to A:T transitionは、34/46(73.9%)、12/13(92.3%)、1/2(50%)で、dipyrimidine site transitionは、21/46(45.7%)、10/13(76.9%)、1/2(50.0%)と差が見られた。地域や遺伝子によりその変異の頻度やスペクトラムにバラツキがあることは、人種差の他に環境因子も大きく関わっている可能性がある。今後さらに具体的に、鼻腔リンパ腫に関わる因子を追求していきたい。
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