研究概要 |
放射線誘発B6C3F1マウス肝癌における遺伝子変異を解析する目的で,放射線誘発肝癌細胞株で高発現するmRNAをdifferential display法により解析し,新規遺伝子の同定に成功した.この新規遺伝子は,221アミノ酸配列のORFを有し,stromal cell-derived factor 2(SDF2)と極めて類似した蛋白であったので,SDF2 like-1(SDF2L1)と遺伝子登録した.SDF2L1蛋白は,マンノース転移酵素活性ドメインをもつPmt/rtファミリーの中心部分と相同性を示した.このPmt/rtファミリーは,酵母では細胞壁の強度に関与し,細胞の維持に重要な役割を演じている.さらにSDF2L1蛋白の特徴として,C末に小胞体ストレスによって誘導される小胞体蛋白に特徴的なKDEL配列に似たHDELを有することから,ストレス応答蛋白の可能性が推定された.そこで,小胞体ストレス誘発剤を用いて肝癌細胞株での小胞体ストレス応答を解析した.その結果,小胞体ストレスではSDF2L1は,代表的なストレス応答小胞体蛋白Bip/Grp78と同様な発現誘導パターンを示した.熱ショックストレスでは,Bip/Grp78は変化がなかったがSDF2L1は弱く発現誘導を認めた.このことから,SDF2L1は,通常の小胞体タンパクとは異なるユニークな転写調節を受ける小胞体ストレス誘導遺伝子であると考えられた.一方,放射線は細胞内に活性ラジカルを生成しこれが遺伝子損傷を誘発する.この損傷修復およびその過程で誘発される突然変異は,自然突然変異が発生する機構と同一と考えられている.大腸菌での解析から,この突然変異の発生は,「誤りがちなDNA修復」に関与するumuC,umuD遺伝子などによって制御されている事が示されている.我々は,酵母で同様な機能を担うREV1遺伝子と相同性を有するヒトcDNA断片(hREV1)の同定に成功た.放射線で誘発される突然変異と遺伝的不安定性の分子機構を解析する目的の一助としてhREV1の機能解析を行った.その結果,REV1タンパク質はDNAポリメラーゼの活性を持たず,dCMPをプライマーの3'端に特異的に挿入する活性を有した.さらに,REV1タンパク質のdCMP転移活性とDNA結合活性は,損傷乗り越え型のDNAポリメラーゼに保存された領域にあることが示された.
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