研究概要 |
放射線誘発がんの分子機構を解明しリスク評価に応用する目的で、B6C3F1マウス肝癌における遺伝子発現異常をdifferential display法により解析し、過剰発現している3個の新規遺伝子のクローニングに成功した。第一の遺伝子は、317個のアミノ酸をcodeしておりshort chain dehydrogenaseに属するcis-retinol/androgen dehydrogenase 1、及び2(CRAD1,2)と高い相同性を有することからCRAD3と名付けた。Androgenを基質とした酵素活性の測定を行った結果、3α-adiolをdihydrotestosteroneに酸化する反応のKmは0.04μMで、3つのCRAD遺伝子の中で最も高活性であった。実際の肝癌でのこの酵素活性も正常肝より高い活性を認めた。従って、肝癌では、CRAD3の発現増加によりdihydrotestosterone濃度が高く維持されており、これが肝癌発症を促進すると考えられる。第二の遺伝子は、221アミノ酸配列のORFを有し、stromal cell-derived factor 2(SDF2)と極めて類似した蛋白であったので、SDF2 like-1(Sdf211)と名付けた。Sdf211蛋白は、マンノース転移酵素活性ドメインをもつPmt/rtファミリーの中心部分と相同性を示した。Sdf211蛋白は、小胞体ストレス誘導蛋白に特徴的なKDEL配列に似たHDELを有した。そこで、小胞体ストレス誘発剤を用いて肝癌細胞株での小胞体ストレス応答を解析した。その結果、Sdf211は、小胞体ストレスで誘導された。第3の遺伝子は、他の遺伝子と相同性がなくA141-36遺伝子と名付けた。この遺伝子産物は、核に局在しマウス肝癌の9例中7例(78%)で発現が増加していた。また、軟寒天培地でコロニー形成能が高いマウス肝癌細胞株でこの遺伝子の発現が増加していた。従って、マウスA141-36の発現は、肝癌の発症と関係する可能性がある。一方、放射線発がんでは、自然突然変異がその発症に重要な役割をなすと考えられる。大腸菌での解析から、この突然変異の発生は、「誤りがちなDNA修復」に関与するumuC, umuD遺伝子などによって制御されている事が示されている。我々は、酵母で同様な機能を担うREV1遺伝子と相同性を有するヒトとマウスの遺伝子(hREV1,mRev1)のクローニングに成功した。放射線で誘発される突然変異と遺伝的不安定性の分子機構を解析する目的の一助としてこの遺伝子の機能解析を行った。その結果、ヒトとマウスのREV1タンパク質はDNAポリメラーゼの活性を持たず、dCMPをプライマーの3'端に特異的に挿入する活性を有した。REV1タンパク質のdCMP転移活性とDNA結合活性は、損傷乗り越え型のDNAポリメラーゼに保存された領域にあることが示された。さらに、マウスRev1遺伝子は、γ線照射により誘導されることが分かった。
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