はるか銀河系の彼方から飛来する宇宙線の主な構成放射線である重粒子及び太陽から降り注ぐ陽子や中性子は、高LET放射線と呼ばれ、生体物質への単位飛距離あたりのエネルギー付与率が大きく、等しい被曝線量のX線やガンマ線に比べて、数倍から十数倍の生物効果を有している。 ショウジョウバエの遺伝的効果検出系を指標とし、Cf-252自発核分裂中性子と重粒子のRBEをLETとの関係において評価した。解析には2種類の突然変異検出系を用いた。1つは第3染色体上に位置する翅毛突然変異(mwhとflr)の体細胞組換えから結果されるヘテロザイゴシティーの喪失、他の1つは、ホワイトアイボリー遺伝子に起こる2.9kb-DNAの欠失から結果される復帰突然変異である。実験は、遺伝的に異なった機構で生じる翅毛モザイクスポットと眼色モザイクスポットを同一個体で検出できるよう統合した検出系を作成した。 Cf-252中性子は翅毛モザイクスポットを単位線量当たり高頻度で誘発する。RBE値は8.5であった。しかし眼色モザイクスポットの誘発についてのRBE値は1.2であり、Cs-137γ線とほぼ同じ効果であった。重粒子として炭素粒子とネオン粒子を照射し、RBE-LET関係を2種類の突然変異検出システムによって調べたところ、炭素粒子の翅毛モザイクスポットの誘発に関しては、LETの増加と共にRBEが大きくなる。また、ネオン粒子については150keV/μmをピークとしてRBEはLETと共に大きくなる。しかし、以降はRBEは小さくなる。眼色モザイクスポットについては、RBEのLET依存性は見られなかった。 これらの関係は、再接合ができないDNA切断や密集した2重鎖切断のような複雑なDNA損傷が翅毛モザイクスポットの生成に関与しLETと共に増加する一方、単純なDNA分子損傷がホワイトアイボリー遺伝子の復帰突然変異生成に関与していることが明らかになった。
|