低線量γ線(50cGy)照射により顕著にGSH誘導のみられる細胞としてマウス・マクロファージ様細胞(RAW264.7)およびチャイニーズハムスター・肺繊維芽細胞(V79)を見いだした。この内、RAW264.7細胞を用い細胞内グルタチオン合成経路の律速酵素の一つであるγ-GCSmRNAの発現誘導に対する種々のリン酸化酵素等の阻害剤を用い、GSH誘導までの情報伝達経路を推定すると、チロシンキナーゼ、カルシュウムイオンおよびPKCなどが相互に関与していることが示唆された。 つぎに、RAW264.7細胞を用い、低線量放射線による放射線抵抗性の誘導機構へのGSHの関与について検討した。この結果、高線量γ線照射(1〜3Gy)により生ずるDNA合成能の低下は、あらかじめ、低線量(25cGy)のγ線を照射することにより、有意に解除された。なお、この際、有意なGSHの上昇も確認された。 最後に、ConAをマイトジェンとしてマウス脾細胞の増殖反応に対する、低線量(50cGy)γ線の作用をマウスに一回全身照射後に得られる脾細胞を用いて検討した。この結果、γ線照射3〜6時間後のマウス脾細胞を用いた際に、この反応が高められた。また、γ線照射後の脾細胞でのGSH濃度の変化を検討すると、照射3時間後より増加、4時間目に最大値に達し、脾細胞を用いたリンパ球増殖反応が活性化される時間経過と良く一致した。 以上、培養(RAW264.7)を用いて、低線量放射線照射による細胞内GSH誘導までの情報伝達機構を詳細検討すると共に、これまで放射線生物学分野で報告されている、低線量放射線による「放射線抵抗性の獲得」および「免疫活性の上昇」の機構を、GSHの誘導と関連付け明らかにすることができた。
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